大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(ワ)9835号 判決 1965年4月01日

原告 伊藤きく

右訴訟代理人弁護士 奥一夫

被告 有限会社欧和印刷社

右代表者取締役 横田美恵子

右訴訟代理人弁護士 雪入益見

同右 田原俊雄

主文

一、被告会社が、昭和三七年九月二二日別紙目録氏名欄記載の者の、同目録口数欄および金額欄記載の口数および金額の引き受け払い込みにより行った金九〇万円の増資を無効とする。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被告が昭和三六年一一月一日設立の有限会社であること、原告が被告会社の出資一〇〇口の社員であること、被告会社では、昭和三七年九月八日に開催された被告会社臨時社員総会において、横田美恵子が取締役に選任されて就任したとして、その旨の登記がされていること、ならびに被告会社では、昭和三七年九月八日に開催された臨時社員総会における定款変更および資本増加の決議にもとづき、別紙目録氏名欄記載の者が同目録出資口数欄および出資金額欄記載の口数および金額を引き受け払い込みをしたことにより、資本の総額を金一五〇万円に変更した旨の登記がされていることは、当事者間に争いがない。

二、そこで、先ず、昭和三七年九月八日開催の被告会社の臨時社員総会における取締役選任決議の存否について判断する。

≪証拠省略≫ならびに証人紺野邦夫、同伊藤貞司、原告本人および被告代表者の各尋問の結果を総合すると、次の(一)から(六)までの事実を認定することができる。

(一)  原告は被告会社の社員ではあったが、被告会社の経営には全く関心がなく、従来から社員としての権限一切の行使をその子である訴外伊藤貞司に任せていた。

(二)  被告会社は、もと、右伊藤貞司および同様原告の子である訴外伊藤正好により経営されていたが、資金が不足し、昭和三七年六月頃から数回にわたって被告の顧客先であった訴外紺野邦夫に資金上の援助をうけていた。

(三)  その後被告会社の経営が行きづまり、伊藤貞司等は紺野に、被告会社の経営のたてなおしを依頼した。

(四)  紺野は、これを承諾する条件として、伊藤貞司および同伊藤正好は被告会社の取締役を辞任し、横田美恵子を被告会社の取締役とする案を伊藤貞司および伊藤正好に示したところ、同人らはこれに賛成した。

(五)  その結果、昭和三七年九月七日頃、伊藤貞司および伊藤正好両名は被告会社の取締役の辞任届を紺野に交付し、ついで同月八日紺野および右伊藤両名は紺野の勤務先である東京大学医学部生化学教室で討議し、さらに被告会社の本店で話し合いを重ねた結果、横田美恵子を被告の取締役に選任することに同意した。

(六)  同日伊藤貞司は原告の印を持参しており、原告から一切を授権されている趣旨をのべていた。

証人伊藤貞司および同伊藤正好(一、二回)の証言中、以上の認定に反する部分は採用することができず、他にこれをくつがえすに足りる証拠はない。

以上認定の事実によると、被告会社の社員のうち、伊藤貞司および同伊藤正好はみずから、原告はその代理人伊藤貞司を通じ本件社員総会の招集手続の省略に同意したうえ、昭和三七年九月八日の本件臨時社員総会が開催され、原告主張の決議が行われたものといって差しつかえない。

したがって、右社員総会の決議が不存在であることの確認を求める原告の請求は理由がない。

三、次に、昭和三七年九月一〇日、被告会社が臨時社員総会を開催し、被告主張のような資本増加および定款変更の決議をしたことは、本件の全証拠をもってしても、これを認めることができない。

もっとも、証人紺野邦夫、原告本人および被告代表者各尋問の結果を総合すると、被告会社の社員である伊藤貞司および同伊藤正好は、被告会社の資本の増加に同意し、原告が従来から被告会社の経営に関し社員として行使しうる権限一切につき代理権を与えていた伊藤貞司が原告を代理して前記事項に同意していたことは、これを認めることができる。しかし、被告主張の日に、資本増加の額、これを引き受ける者およびその口数等について具体的な決議が行なわれた事実までをも認めうる証拠はない。したがって、かかる社員総会の決議を前提とする本件増資は、その要件を欠き、無効とすべきであるから、この点に関する原告の主張は理由がある。

四、よって、原告の請求中、昭和三七年九月二二日の資本増加の無効を求める点についてはこれを認容し、昭和三七年九月八日開催の社員総会における決議の不存在確認を求める点についてはこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 服部高顕 裁判官 西山俊彦 元木伸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例